水稲用除草剤の適正使用

Proper Use of Paddy Field Herbicides

 

適正使用と適切な水管理

農薬は、あらかじめ品質、効果、安全性、残留性などが、基準によりチェックされ、問題ないと判断された薬剤が農林水産大臣の登録を受け、販売、流通している。つまり、農薬登録を受けないものは農薬取締法のうえから販売してはならないことになっており、水稲用除草剤も同様である。
水稲用除草剤として製品に貼付されているラベルには効果・薬害、残留性等から設定された使用基準や使用上の注意事項が記載されており、その内容を遵守して使用する必要がある。
近年、水稲用除草剤は1キロ粒剤に加えて、ジャンボ剤、フロアブル剤、少量拡散型粒剤など多くの省力散布剤が開発され、そのため散布方法が多様化している。薬剤の特長や散布方法を十分に把握し効率よく利用したい。特に散布時および散布後数日間の水管理には十分注意を払う必要がある。水口や水尻の止水をきちんと行なうことは安定した除草効果が得られるばかりでなく水田水系外への除草剤成分の流出を防止するためにも重要となる。

水稲用除草剤は田植時期に水田系外の河川、湖沼でのモニタリングにより検出されることがあるが、使用者が使用基準にしたがって適正使用・管理することにより水田以外への除草剤流出は未然に防げるものである。省力資材としての除草剤の有効活用はもちろんのこと、使用者として環境に配慮した使用および管理法に注意を払うことも重要な課題である。
以下に、各種散布方法別に適切な水管理方法を解説した。

使用方法(各種散布方法と水管理)

除草剤散布時の水管理

1. 水田に投げ入れる、

 

水田に小包装(パック)のまま投げ入れる

ジャンボ剤に対して記載されている。前者は塊型状のジャンボ剤に対し、後者は水溶性フィルムで包装されたジャンボ剤に対しての記述である。 散布時は圃場の湛水深を5cm程度とし、踵跡など田面が露出しない条件で投げ入れる。散布の目安は圃場面積が30a(幅30m×100m)以下の場合は圃場の周囲(畦畔など)を歩行しながら水田内に投げ入れるが、短辺側畦畔の長さが30mを越える圃場では、畦畔からの散布に加え中央に1条入って左右両側に投げ入れることにより除草効果の安定化を図る。散布時の注意事項としては、湛水深が浅い部分があると投げ入れた薬剤が土壌表面に座礁し、有効成分の分散に影響することがあるので注意する。また、散布時の水面に藻類や表層はく離の発生が多いと拡散が妨げられることがあるので、藻類の発生が多い水田では早めの散布を心がけ、多発している場合は散布しない。

2. 湛水散布

全面散布を前提とした1キロ粒剤や顆粒水和剤に対して記載されている。 1キロ粒剤では、散布時は田面が露出しないよう3~5cm程度に湛水し、本田内全面に均一に散布する。全面散布には手で散布するか、背負い式動力散布機、電動散粒機、手回し散粒器などを使用する。機器を用いて散布する場合はあらかじめ吐出量など散布前の調整を行なったうえ、適正に使用する。 顆粒水和剤は専用ボトルを用い、「10a当り希釈液量」に記載されている水量で希釈・調整する。散布時は田面が露出しないよう3~5cm程度に湛水し本田内全面に散布する。

動噴による散布

手回し散粒機による散布

3. 原液湛水散布

フロアブル剤や一部乳剤に対して原液のまま湛水散布することを示している。 散布時は田面が露出しないよう5cm程度に水深を確保し、容器から直接本田内に散布する。なお、フロアブル剤や乳剤の希釈散布は拡散性能の低下による除草効果不足や、薬液が水稲茎葉部に付着することで薬害が発生する危険があるので絶対に行なわない。

4. 湛水周縁部散布

水田の周縁部に薬剤を散布して水田内全面を防除する方法である。少量拡散型粒剤や拡散性が付与された1キロ粒剤で適用性が実証された薬剤について使用できる。 散布時は5cm程度の湛水状態とし、畦畔などを歩行しながら本田内に手振り散布する。圃場面積が30a(幅30m×100m)以下の場合は圃場の周囲(畦畔など)を一周するだけでよいが、短辺側畦畔の長さが30mを越える圃場では、畦畔からの散布に加え中央に1条入って左右両側に散布する。 なお、散布時の水深が浅い場合や水面に藻類や表層はく離の発生が多いと拡散が妨げられることがあるので注意が必要である。特に藻類の発生が多い水田では早めの散布を心がけ、多発している場合は散布しない。

5. フロアブル剤や顆粒水和剤の畦畔からの散布

フロアブル剤や顆粒水和剤は湛水周縁部散布同様、畦畔から直接散布ができる。フロアブル剤は原液を、顆粒水和剤はあらかじめ調整した希釈液として使用する。 散布時は5cm程度の湛水状態とし、畦畔などを歩行しながら本田内に容器から直接手振り散布する。圃場面積が30a(幅30m×100m)以下の場合は圃場の周囲(畦畔など)を歩行するだけの散布でよいが、短辺側畦畔の長さが30mを越える圃場では、畦畔からの散布に加え中央に1条入って左右両側に散布する。また、散布時の水深が浅い場合や藻類が多発していると拡散が妨げられることがあるので注意が必要である。 なお、本散布方法は使用方法欄には記載がないが一般的な使用方法としてここに記した。

フロアブル剤の散布

6. 水口施用

圃場に散布する全量を入水時の水口に一気に投入する方法で、フロアブル剤や顆粒水和剤にこの方法が適用できるものがある。原則として1筆当り5~6時間で水深5cm程度の湛水が可能な水田で使用する。 薬剤施用前に圃場がヒタヒタ水か湛水深1~2cmの浅水となっていてもさらに水深3cm以上を入水する場合に、水口から勢いよく入水し、流入水上に必要薬量全量をいっきに投入する。薬剤がフロアブル剤の場合は原液をそのまま投入する。水口が複数ある場合は、それぞれの水口から適量を投入する。勢いよく入水を続け5cm程度の水深とした後は、水口をしっかり止め、水尻からのオーバーフローがないよう十分な注意が必要である。

7. 落水散布または極浅く湛水にして散布

 

(茎葉散布)

散布時に圃場を落水状態とするかまたは極く浅水状態とし、十分に雑草茎葉部が水面上に露出する条件で茎葉散布する。 薬剤を一定量の水で希釈し、噴霧機器で雑草茎葉部に薬液が十分付着するよう散布する。散布後は少なくとも7日間はそのままの状態とし入水やかけ流しはしない。その後は通常の水管理とする。なお、散布時の落水が不十分で雑草茎葉部が水中に没した状態での散布では除草効果が劣るので十分注意が必要である。

8. 無人航空機による散布

 

無人航空機による滴下

無人航空機による散布または滴下が可能であることを示している。無人航空機による散布または滴下は農薬等を空中散布するという特殊な作業だけに、農林水産省で定めたガイドラインに留意する必要がある。また、散布に当たっては、航空法に基づき、事前に許可・承認が必要であり、その審査の中で、①機体の機能及び性能、②飛行させる者の飛行経歴・知識・技能、③安全を確保させるための体制が確認されることになる。なお、散布日は田面が露出しないよう3~5cm程度に湛水しておく。留意点の詳細については各薬剤の使用上の注意事項を参照されたい。

除草剤散布後の水管理

一般的に、湛水条件下で散布された除草剤の有効成分は水田土壌の表層に吸着されて除草効果を発揮する。安定した効果を得るためには、この処理層を破壊しない水管理が大切である。特に処理後7日間の管理が重要で、水尻や畦畔からの漏水を防ぎ、強制的な落水やかけ流しは行なわないようにする。植調協会では、水田系外への流出防止技術として、散布後、水田水がなくなるまで給水しない止水管理を提唱している。